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“2008年 ラスト” 編



08.09.19
(Fri) Mt 「名残を求めて...」 
                                                                                                  

「かつては、全てがブナ林だった。」
「戦前は、信じられないような でっかいクリの樹が何本もあったんだ。」
「あの頃は、植林することだけが美徳とされていた。」
「みんな必死で働いたんだ。」
「もう残されてはいないよ。」
「〜が視察に来て、ここだけでも残しておいてくれと懇願したんだ。」

多くの山人から、様々なエピソードを伺っていたので
広い稜線の現状が、いかなるものなのか... 頭では理解していました。

しかし... 私はそれを知識だけで終わらせるのではなく。。
ありのままの様相を、実際に目の当たりにし、肌で感じ、少しでも体得しておきたい。。
そう考えるようになりました。

ラスト・スパートのフィニッシュは、“ムシ採り” ではなく...
歩いて、空気を吸って、険しさを思い知って、名残を求めて... 決めたいと思います。



目の前に広がる尾根筋の全てを、肌で感じてみたい。
ずっと、そう願い続けていました。

実際に行動に移すのならば、片隅に車を置いて単純に往復しなければならないでしょう。。




しかし... 稜線に取り付くには、どこを糸口とすればよいのか。。
それを見つけることが はじめの一歩 となりました。



2008年 9月13日...


あまり時間がありませんでしたが、地形図とペンを持参しつつ
まず手始めに、右端に見える伐採地から攻め込んでみることにしました。。

自然立地的な本来の植生は... 本当に 全く残されていないのでしょうか??


.. 奥に見える稜線(エリア B)を
目指します。。



目の高さを越える草木を掻き分け...
三歩進めば 引っ掛かる、鬱陶しい トゲを払いのけ...
乾燥したホコリを、花粉を、まとわりつくクモの巣や
小さなムシを、払いのけ...

大汗をかきながら、稜線の目前まで辿り着きました。。


随分近づいてきましたが...



しかし... あえなく ここでタイム・アップ。。
これ以上先へは進めません。。

残念ですがUターンすることになりました。


下山中に、植林・伐採作業道を見つけ
ちょっとだけ寄り道してみました。

ウネ×2 と 20分程登って振り返れば
随分と見晴らしが良くなっていました。

せっかくなので、視界に入った尾根筋や沢筋を
国土地理院発行の地形図と照合してみました。

う〜む... いつ見ても、本図の正確さには
驚かされるばかりでした。


植林・伐採作業道の終点から
眼下を見下ろします。



前方中央の稜線直下まで辿り着いていたのですが... 残念です。
あと 3時間ほどあれば、稜線に乗り
付近の植生チェックができたことと思います。


次回は、絶対にあそこへ乗りましょう。



しかし、少なくともこの辺りの尾根筋には
落葉広葉樹林が若干残されている事がわかり
益々意欲が出てきました。

これでも、一歩前進です。。

次回は、もう少し早く訪れたいと思います。



2008年 9月19日...


AM 4:40に目が覚めました。

台風が近づいているようですので、その前に 何とかしておきたいな。。
そう思いました。

心が、身体が、充実しているうちに
未知の稜線を縦走・往復することにしました。

前回以来、毎晩のように地図を眺めて...
今回は、よい切り口を見つけてきました。。


到着です... @ 10:20



滑り出しは、強引に行きます。


よじ登って、スタートです... @ 10:30



若いコナラ、シデ、ブナ... 多様な樹木が散見されます。。


エリア A ... @ 10:33



アカマツも見られます。


エリア A ... @ 10:36



この大胆な裂け具合... まだ新しいです。
今後、要チェックですね。。


傷を負った、アカマツです。



すぐに、踏み後を見つけました。
これは 心強いです。


エリア A ... @ 10:41



ピークには必ず打ち込んであります。。


チェックポイント ... @ 10:45



次第に、植林と 二次林が 分かれてきた気がします。。


エリア A ... @ 10:48



植林地(あちら)側に、視界が広がりました。。


眺望 from エリア A ... @ 10:52



傾斜が出てきましたが
下草がなくなり、非常に歩きやすくなりました。


エリア A ... @ 10:53



若ブナの倒木です。
このエリアでは、生樹も含め、ブナは数える程度しか確認できませんでした。


エリア A ... @ 11:00



完全に 2分化されました。


エリア A ... @ 11:05



チェックポイントが増えてきました。
アップ・ダウンが激しい証です。


ここ()です、とアピール... @ 11:09



地形図と照合し、現在位置をマメにチェックしていきます。


チェックポイント... @ 11:12



出発して、約45分が経過... 次のエリアへ移ります。。

おや??


エリア B ... @ 11:16



あれは前回、ちょっと寄り道をして眼下を撮影した
植林・伐採作業道の終点です。。


大分距離があったのですね... (^ ^;;



その際、落葉広葉樹林と見ていた緑地(こちら側)は、アカマツが優勢でした。


チェック・ポイント ... @ 11:18 急斜面です ... @ 11:20



更に稜線を登ります。。
珍しく、大岩が現れました。


エリア B ... @ 11:25



ドルクスマークが。。


チェックポイント... @ 11:32



書置き。。


平成 20年 3月 ... @ 11:34



出発して、約1時間が経過。。
アカマツ・落葉広葉樹 混生林の、エリアB は随分と広いです。
地形図上に、それらがしめる範囲を 細かく丁寧にメモしていきます。

これは、アカマツの立ち枯れです。。
根回りの腐った樹皮下に、何かいるでしょうか??


エリア B ... @ 11:37



おおっ!セオリー通り オオクロの死骸を幾つか確認できました。
先日、水戸市立博物館で標本を沢山拝見しましたが
相対的に見て、この個体は かなりでっかいと思われます。。


オオクロカミキリ
Megasemum quadricostulatum

KRAATZ, 1879



周辺の状況です。。


エリア B ... @ 11:45



相変わらず、あちら側は植林ですね。。
どん×2 行きましょう。。


エリア B ... @ 11:48



眼下の景色が、少しずつ見え始めました。


エリア B ... @ 11:50



ここは明るいですね。
シーズン中にやってきたかった雰囲気があります。。


アカマツの倒木です ... @ 11:53



マツの背景に、てっぺんです。
イメージしていた雰囲気とは大違いでした。。


エリア B ... @ 11:54



ここからは、暫し ヤブ漕ぎが続きました。
ちょうど、胸の高さほどに生い茂るササを 延々掻き分けて進みます。


エリア C ... @ 11:57



こちら側の斜面は、アカマツが消え、広葉樹の二次林が続きます。


エリア C ... @ 12:01



この様に、埋もれているものが多いですが
場合によっては、土を削ってでもナンバーを読んで記録しておきます。
きっと、緑地分布図の作成に役立つ筈です。


チェックポイント... @ 12:07



“あっち” も “こっち” も、植林になってしまいました。。(^ ^;;


エリア C ... @ 12:12



されど、十数分で 再び片側植林の復活です。
出発してから、2時間が経過...
やはり、基本はこのパターンですね... (^ ^;;


エリア C ... @ 12:30



と、思いきや... エリアが変わると、いきなりあっち側の伐採地に出ました!
何だか、とても眩しいです。。


エリア D ... @ 12:35



作業道でしょうね。。


伐採地 ... @ 12:37



果て逝く、モミが立ちます。。


モミ ... @ 12:38



こちらはアカマツ。。
倒されたばかりですね。。


アカマツ ... @ 12:39



リュックに背負っていた おにぎりと お茶を お腹に入れながら
なおも植林の中を突き進みます。。


エリア D ... @ 12:56



薄暗い植林内で、グズ×2 になっているモミの立枯れを発見。。
昆虫の姿は、ありませんでした。。


エリア D ... @ 12:57



伐採地、その2 へ出ました。


伐採地 2 ... @ 13:00



で、エリアを変えて、三度暗い植林の中へ突入します。


エリア E ... @13:02



陽だまりに出ると、老ブナが保護されていました。。


老ブナ... @ 13:09



この様に、埋もれていると番号が読めません。。
相変わらず、掘ります。。


チェックポイント... @ 13:11



出発して、約3時間が経過。。
ようやく、あの時見た 過去の名残を拝むことができました。。


エリア E... @ 13:17



そして更に行けば... わずかな自然林との再会です。


唯一の自然林... @ 13:29



さぁ、時間がありません。
さっさと 折り返しましょう!


おっと... 早速往路での見落としがありますね。。

手がかりになるものは、全て白地図上にメモしていきます。
これも埋もれていますね。。


チェックポイント... @ 13:43



折り返してから、1時間30分が経過。。
再びアカマツが多い、エリアB を辿ります。

往路では、ここが本稜線のピークかな??と思っていたのですが...
(先程掲載した大岩とは、別のものです。)


エリア B ... @ 14:57



少しだけ脱線して、あっち側へ派生した稜線を辿ると
754.4m のピークが現れました。

おおっ!誰かの足跡です。。
なんと、この表札... 見覚えありますよ。w(◎。◎)w

こんな所へも来てるんだ... なんて考えると
心が和みました。


エリア B’ ... @ 15:03



少し下がりながら、改めて現場を撮影。。
どこを向いても、眺望はありませんけどね。。


エリア B ’... @ 15:04



本線に戻り、歩き始めて遂に 6時間が経過。。
休みを入れてないので、脚の節々が大分痛くなってきました。。

因みに、ここでは イノシシとの睨めっこがありました。
絶対に視線を外さず... 瞬きをせず... (^ ^;;
まぁ、ウリボーと一緒ではなかったので特に危険を感じる事はありませんでしたけど。。


エリア A ... @ 16:34



6時間 18分が経過。。
出発地点に戻ってきました。。

これで、全てが終了です。。
くたびれましたが、良い汗をかきました。。


マイ・カー... @ 16:48




〜 後記 〜


地形図とペンを持参して
メモをとりながら、ヤブ漕ぎをしながら...
片道 4.2km のUP・DOWNを往復しました。

大規模なアカマツ林や、落葉広葉樹林(2次林)
植林地、伐採地...
前情報どおり、もはや これ以外の緑地は存在しませんでした。

道中で出逢ったのは、イノシシ一頭だけ。
マイ・カーの元へ辿り着いたのは 16:48のことでした。

一息をついて... これまでを振り返れば。。

あの山の、頂付近にわずかに残されていた
植生豊かな天然林と触れ合い...
大桃定洋先生のご指導により
現地に依存しなければ生きられない甲虫類の存在を思い知るたび
遠い昔、広く尾根筋を包んでいた本来の森の姿を想像することに
私は、大きなロマンを抱いてきました。。

山麓に住まうSさん御夫妻をはじめ、温かい多くの方々との出逢いの中で
かつての植生、山の幸、隣町との交流、山林火災など
戦前からの様々な歴史的背景を知ることによって
益々この地に惚れ込んでいきました。

くたびれはしましたけど... 満足しています。
よそ見をせずに、ここまで やってこられたのですから。。


〜 主な確認種

●カミキリムシ科 Cerambycidae
 オオクロカミキリ
●コクヌスト科 Trogossitidae 
 オオコクヌスト




花瓶山

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