調査履歴

“2012年 R地区調査” 編 (52)



12.08.03
12.09.17  Plateau 「総仕上げ : スダジイの古木めぐり 〜 ベーツヒラタの分布調査」 
                                                                                                  

8月です。 昨秋から繰り返してきた 照葉樹林めぐりを
総仕上げする時期に突入しました。

茨城県 R地区ならではの自然林を指標する、ベーツヒラタカミキリの分布調査です。

既に死骸を確認したエリアもありますが...
改めて、これまでに把握した 全44ヶ所の社寺林を見直したいと思います。

本報では、写真や動画を撮影した7日分の様子を 簡単にご紹介致します。



12.08.03
(Fri)


実際のところ、7月下旬 ( 7/24、7/25 ) あたりから
早々に夜回りを始めていたのですが
ベーツヒラタカミキリの動きは、まだキャッチできていません。

しかし、8月最初の調査に臨む今夜は、何だかワクワクするんですよね。。
一週間も経てば、事情は随分と変わるはずです。

22:00 に千葉の借家を後にして
実家への帰りがてら、5つの社寺林を回りました。

話は、その 3ヶ所目からとなります。

到着は、23:55。。

それまでの神社が全て暗闇に包まれていたのに
こちらは眩い明かりが灯されていたので
ちょっと拍子抜けしました。

歩み寄ってみると 白いテントが張られていて
付近には交代制で番をする方がいらっしゃいました。

こんな時間に、何かあるのですか??

・・・と尋ねたところ、明日から この神社の祭礼があるのだそうです。
厳密に言えば、前夜 ( この夜 ) から準備を始めていなければならないとのこと。。

ご苦労様です。




それにしても、神社の境内に 白いシート+ライト ですよ。
なんて都合の良いシチュエーションでしょう。

地元の方に お願いをして、早速昆虫チェックをさせて頂きました。

やはり沢山のムシが集まっています。 が... 本命の姿はなし。。

甘くはないですね。。

因みに こちらの様子は、地元の方と世間話しながら見つめたものです。。




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さて、4ヶ所目です。

ここは、鳥居の傍に明かりが灯されていたので歩きやすかったです。。




スダジイの樹幹を丹念にチェックしていくと...
すぐに ノコギリカミキリの♂が見つかりました。


Prionus insularis insularis MOTSCHULSKY, 1857 ♂



そして、そんなノコギリカミキリの羽化脱出孔が開いている
樹皮の裂け目を照らした瞬間...

お! 何かいる。。




しかし、真っ赤な物影は一瞬にして後退り ( あとずさり ) 。。
姿が見えなくなってしまいました。

でも間違いありません。

今のは、ベーツです。

ここでは死骸すら確認しておりませんし
うまくいけば 今シーズンの第一号となりますから
是非採集しておきたいところです。

でないと、プロットが打ち込めません。。
( これまでに確認した死骸は 全て記録の裏付として保管してあります。 )


ここは落ち着いて挑みましょう。
運転席へ戻り、10分ぐらい時間を空けてから
改めて現場を訪れました。

すると...

出てきました!




やはりベーツです。

フラッシュ撮影に驚き、再び引っ込んでしまいましたが
そこでまた10分ほど粘り、ようやくピンセットで摘み出しました。

既に日付は変わり、0:49 のことでした。

立派な顎を持つ ♂ですね。
左の触角が切れていたので、早々にケンカでもしたのかも。。

まずは、ホッとしました。。(^ ^ヾ



Eurypoda batesi GAHAN, 1894



最後に、もう一つの神社をチェックしましたが
そこではベーツの影を見出せませんでした。

しかし、ようやくシーズンの入口へ辿り着くことができました。
これから少なくとも 1ヶ月は 夜回りに専念したいと思います。


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12.08.05
(Sun)


まめに、夜回りを続けています。
この日は、死骸未確認のエリアを優先的に歩きました。

冬季から場数を踏んできたせいか
このように、風通しの良いシチュエーションを好むことが
分かってきました。

スギカミキリなどと 同じですね。。





うん、やはりいましたね。。

樹皮の裂け目を覗き込むと、触角や脚が移動していきます。
( デジカメによるものですが、動画撮影しました。 )


@ 21:31
( → 動画



少々時間を要しましたが、何とか引っ張り出すことに成功しました。 ♂です。


Eurypoda batesi GAHAN, 1894



見事な樹叢を抱える この神社にも
ようやく プロットすることができます。



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続いては、こちら。。

ここでも死骸を確認できていません。
しかし、羽化脱出孔なら幾つか見かけています。

鳥居の傍と、御堂に明かりが灯されていました。
助かります。




念の為、灯下に群がったムシをチェックしましたが
カミキリムシの姿はありませんでした。

まぁ、そんなものでしょうね。

では地道に行きますか。。

懐中電灯を持って、冬季に目星をつけておいた
スダジイの傍へ歩み寄ると...

いました!

それも、一本目から!!

せわしく動き回っているので、とても撮影などできません。
慌てて 録画モードに切り替えました。

因みに、大型の♂ですね。


@ 23:09
( → 動画



やはり ここにもいましたか。。

これまでの入念な下見が功を奏したのですから、嬉しい限りですよ。

白地図上の、「未確認 △」 が、「死骸 or 生体採集▲」に変わります。
それも、一夜にして2ポイントです。


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まだまだ 行きますよ。。

こちらは真っ暗闇に包まれています。
それが自然ですよね。。

前面の鳥居はスギやサクラに包まれていますが
御堂の周囲や裏手には立派な照葉樹林があるんです。




大きな洞が空いた 最も雰囲気が良いスダジイの樹上を照らしていると...

お!運良く 小型の♂が降りてきました。

捕虫網がギリギリ届く範囲で、再び上方に向かい始めたので
下から軽く突いてみたのですが...

ポロッと地面に落ちてしまいました。 ネットインならずです。

ありゃ... 見失ったかな??

ちょっと焦りましたが、大丈夫。見つかりました。

頭部と前胸の境目に、穴が開いています。
明らかに噛みつかれた痕です。

発達した大顎を持つ本種のことですから
攻撃的で、ケンカも絶えないのでしょうね。。


@ 23:48
Eurypoda batesi GAHAN, 1894



ここでは死骸を確認済みなので、プロットは変わりません。

その他 3ヶ所を回りましたが、結果を出すことはできませんでした。
6打数 3安打 1見逃し三振。。全て♂。 そんな感じです。
まだ♀は現れていませんね。。


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12.08.11
(Sat)


御盆を控え yasu くん達が帰省したので
この日は彼を乗せて夜回りしました。

3つ目のポイントで、ベーツの♂を確認できたのですが
羽化脱出孔の奥深くから出てこなくなり
( 周囲から藪蚊ばかりが出てきて... ) あえなく降参しました。

そしてここは、4ヶ所目となります。。


@ 23:24



付近には、廃校があって
そこのプールの街灯に ムシが ワンサカ群がっている様子でしたが...
地元の おじいさんが クワカブ拾いに専念されていたので
その場は見送りました。 御盆前ですし、おそらく子供らへプレゼントするのでしょう。

ベーツが灯下に飛来することもあるのでしょうが、それは確率の低い話です。

地道に探索を開始すると
目星をつけておいた樹洞の一つから、早速♀が見つかりました。
ピンセットで摘み出したのは、yasu くんです。

この他には、同じ ノコギリカミキリ亜科 Prioninae の
ウスバカミキリも見つかりました。


  Eurypoda batesi GAHAN, 1894



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続いて 5ヶ所目...

死骸はおろか、まだ羽化脱出孔すら確認できていませんが
ここになら絶対にいるはず!と確信している社寺林です。

境内を散策し始めてまもなく yasu くんがこちらを呼びました。


そそくさと歩み寄ると、根際の洞にライトを当てています。

いましたか!? おお、今度は♂です。

お陰さまで、ここも、△ が ▲に変わりました。

いいですねぇ!

読み通りであったことが判明したときの感激は
何とも言えません。


  Eurypoda batesi GAHAN, 1894



その後... 3ヶ所目の林内における取りこぼしを、再度見に行きましたが
脱出孔内は既に空っぽでした。

運動公園の街灯下を見回り、ミヤマカミキリや ノコギリクワガタを見つけてお開きです。

久しぶりに yasu くんが参加したので
この日は夜中の 1:40 まで、R地区内を徘徊しました。

結果は... 6打数 2安打 1見逃し三振。
そんな感じでしょうかね。。

時には足踏みをしながら、徐々に徐々に 前進しています。



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12.08.13
(Mon)


この夜は、ベーツヒラタカミキリのマウント行動を確認できました。
R地区では、なかなか見られない光景だと思います。

デジカメによる動画ですが、よろしければ ご覧ください。
既に採集済のポイントだったため、このペアには手をつけず見送りました。

それ以外の森では、結果を出すことができませんでした。


@ 22:56
( → 動画



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12.08.16
(Thu)


毎晩のように、出かけています。

この日は、昨秋から 羽化脱出孔すら見出せてないポイントに
再再再チャレンジです。

海側の台地上にはプロットが少ないので
何とか 結果 ▲ を出しておきたいところ。。

効率が悪そうですが、念の為 ライトトラップ も試みてみました。

写真は... いったんライトを灯してから、忘れ物を取りに車へ戻り
再び現場を目指しているところです。




人里離れた “ 神聖な区域 ” とのことで
慣れていない人には、ちょっと怖いかもしれませんね... (^ ^;;

半径 1km 以内に、いったい何人の方がいらっしゃるでしょうか。。
もしかすると、僕だけかもしれません。

それが またいいんです ^ ^




鳥居の奥には、古びたお堂があるのですが
その周囲には、スダジイの大樹が何本も聳えています。




しかし... 飛来するのは アブラゼミやカブトムシばかり。。
かなり賑やかなんですけどね... (^ ^;;

やはり、そんな簡単にはいかないな。。

何気に... これまで僕は、灯火 or 灯下 で
ベーツを目撃したことがありません。。(^ ^ヾ

南方の多産地なら迷い込んでくることもあるのでしょうが
本県は現時点で北限に当たる訳ですから
無理もない話です。

う〜ん... やはり、行動あるのみです!

懐中電灯を持って、こちらから迎えに行くことにしました。

お堂の左手へ入り
不気味なオーラを放つ スダジイ群の根周りを チェックしていくと...


いたよ!


@ 22:41
Eurypoda batesi GAHAN, 1894



立派な顎を持つ、♂です。

だけど...

小っちぇ〜。 まさに ミニマム級... (^ ^;;

あまりにもの小ささに、インパクトが大き過ぎました。
今年採集したベーツの中で、一番のお気に入りになりそうです。


ここでは何度も空振りしてきましたからね...
まずは 結果が出てホッとしました。
早くも目標達成です。


さて... せっかくですから、他の立ち枯れなどもチェックしてみました。
こちらは菌糸まみれですが、どんな様子でしょう??




わお!

小さな甲虫が沢山群がっています。
顔ぶれを大まかに列挙していくと...

オオキノコムシ科 Erotylidae や コキノコムシ科 Mycetophagidae
ナガニジゴミムシダマシ
Ceropria属 の他
ハギキノコゴミムシ
Coptodera subapicalis PUTZEYS, 1877 (写真 左)
コヨツボシアトキリゴミムシ
Dolichoctis striatus striatus Schmidt-Gobel, 1846 (写真 右)
など、好物であるアトキリ系のゴミムシも見られました。

yasu くんが最近このパターン ( 特に チビオオキノコ類 )に どっぷりなので
来年は連れてこなければなりません。



Coptodera subapicalis
PUTZEYS, 1877
Dolichoctis striatus striatus
Schmidt-Gobel, 1846



で... 初めに仕掛けた トラップの傍へ戻りましたが
こちらの役者は、いっこうに変わっていません... (^ ^;;

まぁ、ベーツさえ確認できれば御の字なので
この辺でセットを撤収することにしました。

灯りの下で、改めて先程のベーツを眺めてみます。



Eurypoda batesi GAHAN, 1894



本当に小さい。 可愛い過ぎます!



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12.09.11
(Tue)


気がつけば、小学時代からの親友である 竜郎くんの日です。

▲プロットを着実に刻みながらも
あっという間に 9月を迎えてしまいました。

8月は、毎晩のようにベーツの分布を探りましたが
チェックすべき森があまりにも多すぎて
ゴールはもう少し先になりそうです。

さてこの日は、早々の仕事帰りに こんなお寺へ寄ってみました。

2度目のご紹介になるでしょうか??
ここも、羽化脱出孔すら未確認です。




大変貫禄があるスダジイの巨木です。

勿論、これ以外にも
周囲には何本もの大木が見られます。




既に 9月の中旬へ差し掛かっていますし
そろそろ 生を全うした個体が下へ落ちてくる頃かもしれません。。

あちこちで古い死骸を見つけてきた経験を踏まえ
今回からは、根周りのチェックに シフトしてみました。。

すると...

わお!




予想的中です!

こうも あっさり行ってしまうと、ちょっと できすぎな気もしますが
素直に嬉しさを噛み締めました。

♀ですね。

それにしても、でかいです... (^ ^;;


まさに スーパー ヘビー級...。


Eurypoda batesi GAHAN, 1894



カラッカラに乾いていましたが、運良く欠損が殆どありません。
かなり立派な個体ですので、軟化処理して展足しようと思います。

滑り込みで、また新たに ▲プロットできました。


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12.09.17
(Mon)


報告書の提出期限が、10月 8日に定められました。
暇さえあれば、序論を書いたり、図表や分布図を作成したりの毎日です。

これまでの文献記録についても、可能な限り生データを再録することになりましたので
諸作業は大変ですが、それらを基に よりリアルな話ができる訳ですから
とても やり甲斐を感じています。

勿論、期限ギリギリまで 新たな情報の収集にも励むつもりです。

yasu くんの誕生日となる この日も、スダジイの根周りをチェックしました。




でかいですよね!

民家の周囲に聳える このスダジイは
市指定の文化財なんですよ。

で、やはり落ちていました。
お尻の湿り具合などから判断すると
つい先日まで生きていたような状態です。

そう考えると、ここR地区では
8月 〜 9月中旬ぐらいまでが活動期なのかもしれません。




なかなかカッコ良い、中型の♂です。


Eurypoda batesi GAHAN, 1894



左顎の先端に少々の擦れが見られますが
それ以外には大した欠損がありませんので
持ち帰り展足したいと思います。


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その後、とある環境保全地域を再訪しましたが
またしてもベーツの足跡を見出すことができませんでした。
結局、▲ではなく △どまりです。
むしろ、そんなケースの方が多いんですよね。。

しかし、未確認の事実も 重要な結果の一つとして
記録すべきだと思っています。


続いての環境保全地域では...




比較的新しいベーツの頭部と、ノコギリカミキリ♂の死骸を見つけました。
ベーツについては、既に上翅を見出していたので結果は変わりません。
しかし、ノコギリカミキリのプロットが増えたので結果オーライです。




そういえば、今季僕はノコギリカミキリの♀を一度も見ませんでした。。
この死骸を含め、8事例 全てが♂で記録されます。


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“ スダジイの古木@環境保全地域めぐり ” を ご紹介するのは、遂に これが最後となります。
今回はここで上翅を見つけましたが、過去に腹部を採集しているので プロットの更新はありません。





路傍で出逢った おばあちゃんに

“ こんにちは! ” と、声をかけたら...

「あれ?あれ? 誰だったっけ??」 と考え込んでしまったので...

“ おばあちゃん、分かるわけないよ。 初対面だもの ” と続けると

「 あ゙ははははは!(>_<) 」 と、大爆笑してました。

その後、お寺の井戸水で 顔を洗わせてもらうと
不思議なもので、早くも充実した気持ちで いっぱいになりました。

ゴールはもう少し先なのにね... (^ ^;;

まだまだ 残暑が厳しいですが、何だか とても穏やかな午後になりました。。



〜 後記 〜


以上、7日分 の備忘録となります。

8月 〜 9月にかけて、いったい何日を費やしたことでしょう。。
昨年秋からの下見を含めれば、相当な日数に及びます。


照葉樹林 全44ヶ所を、最低 2回、多くて5回は回りましたからね。。

しかし、生まれ故郷のR地区にも 小規模ながら良好な自然林が残されていることを
このベーツヒラタカミキリの存在が裏付けてくれます。

社寺や城跡などを包む鎮守の森が
今後もありのままの様相を維持し続けることを願いたいものです。

そのために 僕はずっと動いてきました。
本当に楽しかったですよ。

詳しいことは 水戸昆のるりぼし紙面上にきちんと整理し
一時代の記録として ご報告したいと思います。
それが本当の締め括りです。


現地調査や資料収集に協力してくれた yasu くんや Fuda くんに、感謝いたします。

( → 標本写真 )




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