調査履歴

“2012年 第5次調査” 編 (6)



12.11.10
12.11.19 Mt 備忘録(6) ストーリーを絶やさぬために。。
                                                                                                 

久しぶりに、大好きな山へ行きたい。。
R地区調査の纏めに徹したこの一年間で
何度 同じ言葉を呟いたでしょうか。。


かつては 「第二の故郷」 と謳っていたぐらいですから
よほど愛着があるのだと思います。

ふと、昨年の今頃に綴った調査記を振り返ると...
やはり あのちっぽけな森を恋しく思い、現地で材採していました。
因みに掲げられたタイトルは “ ストーリーは、繋げていかないと。。 ”
更に目的は 「 来年への布石をつくるために 」 でした。

今年はそんな布石を活かせず、特に進展がありませんでしたけど
“ ストーリーを絶やさぬために ” 相変わらず材採を繰り返しておこうと思います。
せめてこれだけは、ぬかりなくやっておかねばなりません。

紅葉のピークが過ぎた頃に、ちっぽけで儚い自然林へ赴きながら
今年も 調査活動を〆括ることにしました。



12.11.10
(Sat)


13:15。

家を出てから およそ 3時間後に
ようやく美しい彩の中へ身を投じることができました。


尾根にのって、まずは一呼吸。。
視界良好とは行きませんが
“ ここ ” の トップを 見つめます。
@ 13:15



(3)沢 - (4)沢 間に派生する尾根を辿り、(3)沢へ降りました。。



絡み合うフジ蔓の様相が、美しいです。
@ 14:00



地崩れしやすい急な斜面を、慎重に下ります。。


足を滑らせれば一気に転落です。
@ 14:32



深~い谷底が 見えてきました。

ここには、ムネモンヤツボシカミキリ
Saperda tetrastigma BATES,1879 が棲んでいます。
昨年と同じく、食痕の走るサルナシ材を探すことにしました。


両脚の踏ん張りが利くまで
斜面を徘徊しました。



夢中になると、あっという間に時間が流れますね。。

日没を気にして、16:00 過ぎには
降りてきた急斜面を這い上がり...
そして下山しました。


運転席へ辿り着き、改めて一呼吸です。。
回収したサルナシ材の量が多すぎて... 手や脚が震えてしまいました。

いやいや、重かった。。


帰り道... 辿っていた沢筋で、なおもサルナシ材を回収。。
樹皮を剥がすと、運良く幼虫を確認できました。


このように太いサルナシは
なかなか見ることができません。 @ 16:31



人里に出てきました。。

空き家も多く、ちょっとわびしいイメージですけどね。。

とても懐かしくて、心が落ち着きます。。



また来ます。。@ 16:56



日没までの わずか 2時間ほどでしたが
深まる秋の谷に 挑むことができました。

冷たい空気の中で、汗まみれになりました。
急斜面に踏ん張る両脚が、震え始めました。

本物の自然は厳しく、そして険しいものです。
だからこそ、その彩りは美しい。

晴天であれば、より輝かしかったことでしょう。


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12.11.19
(Mon)


時間をかけて、再び あの森を目指しました。


今回も、曇天です。。



とある土場にマイ・カーを残し、登山へ移行します。

暫らくは、踏み跡が全く見えません。。
それでも、下草が枯れて 随分と登りやすくなっているんです。。
蒸し暑い夏季などは、かなりしんどい思いをしました。
ライトトラップを仕掛けるために、発電機を担ぎ上げたこともありましたね。。

もはや、懐かしい記憶となり始めています。。


荒れた沢筋を、登っていきます。
@ 11:35



おや? 上の方から どなたかの話し声が聞こえてきました。。
僕よりも先に 登っている方々がいらっしゃるようです。


稜線の光が、見えてきました。@ 11:47



さぁ、自然林へ突入です。。

早速 (・) マークの入った細枝を見つけたので割ってみると...
キラン!ルリクワガタ の♂が出ました。



ルリクワガタ :♂
Platycerus delicatulus delicatulus

L
EWIS, 1883



ここで、先程前方を登っていらしゃった ご夫妻に追いつき
お話をすることができました。

宇都宮から来られたという お二人は
これまでに関東地方の多くの山々を登られてきたそうです。

お互いの興味や ご年齢の移ろいに応じて
目的を変えながら登山を楽しんできたそうです。
それが、飽きないコツだとか。。

いや~、色んなエピソードが聞けましたよ。
勉強になりますね。

僕は... “ ムシを通して 森を見つめることが楽しくて。。 ”
そんな風に自己紹介しました。

手にしていたルリクワガタを差し出すと
旦那さんが、熱心に観察していました。

霰 ( あられ ) が舞うような、冷たい風に包まれていましたが
仲が良さそうなお二人と 笑っていたら
とても あたたかな気分になりました。

晴天でしたら、山肌の彩りも より美しかったことでしょうね。。
ご親切にしてくださり、どうもありがとうございました。

また、どこかでお会いしましょう。。



それでは、材採を始めましょうか。。

今回は、(2)沢 - (3)沢 間の尾根を辿り、(3)沢の下流域を目指すことにしました。



写真の真ん中が、稜線になります。
若木をよけながら
まっすぐに降りていきます。。



このあたりのハリギリでは、ジュウニキボシカミキリが育まれているんですよ。。



イヌブナの立ち枯れです。
面白い生え方ですよね。
斜面林ならではです。



徐々に、(3)沢の流れが耳に届いてきました。

こちらは... 昨年もご紹介したホオノキです。。
自重に耐えられなくなって、途中で折れてしまっています。

この写真では、正面に通直に立っているように見えますが
急斜面を見下ろして撮影しているので
実際には、かなり傾いているんです。。








谷の断面は、こんな↑感じです。@ 12:41



立ち枯れではありません。 まだかろうじて生きていますからね...
ただ、ダメージが大きいので
夏季にはフチグロヤツボシカミキリ
Pareutetrapha eximia ( BATES,1884 ) が
群がっていたことでしょう。

産卵された可能性の高い細枝を選び、何本か持ち帰りました。

さて... せっかくですから
今回は “ いつものホオノキ ” だけではなく
写真の右下に見える広葉樹もご紹介しておきます。


斜面に踏ん張る樹々の様相を
ご紹介したく思います。



見てください! この傾きようを。。
凄いですよね。。


根っこには、相当の負荷が
かかっている筈です。



しかも、その先端の枝が あたかも独立した樹のような太さを成しており
光合成のために、何本も上方に向かって成長しているのです。。



途中の洞も、気になりますが...
とても覗くことはできません。。



もはや、建築・土木用語でいう “ 片持ち梁 ” ですよ。
“ 曲げモーメント ” が、相当にかかっているでしょうね。。

ここへ来るたびに、感心していました。
まさに、“ 生きようとする力 ” です。


(3)沢へ降りてからは、サワグルミの巨木の周りで落ち枝を拾ったり
食痕の走るサルナシ材や、コルリクワガタの幼虫を見つけて採集しました。


今日は、ルリ・コルリも採集できました。
幼虫は、自宅で飼育するつもりです。



ちょっと心当たりがあったので
(1)、(2)沢の出会い ( 合流点 ) まで降りて
今度は (2) の沢をチェックしに向かいました。

現場の写真になります。 逆光で見ぬくいですが
高~いところからサルナシがぶら下がっています。。



真ん中です。。
写真を 左右に 二等分するように
ぶら下がっています。 @ 13:54



で、下の方へ。。
すると、二股に分かれているんですよね。。

一方は水際の方へ伸びており、大分衰弱しています。
昨年の秋から把握しておきました。

ここでもムネモンヤツボシカミキリの食痕を確認できたので
ありがたく材をいただきました。



下の方に衰弱部分があることは
以前から頭に入れてありました。



この辺で、引き返しましょう。。

(1)沢を跨ぎ、向かいの急斜面を見上げてみました。

標高や面積、植生なども含め、ムシを採るには条件が悪いですけど
我が県では貴重な自然林の一つなのです。

努力、工夫をすれば そこそこにムシが採れ
森を指標することも可能です。


何度も何度も、この様な急斜面を
調査してきました。



2012年も、ブナの大樹を見ながら 調査を締め括ることができ、幸せでした。
今回は、これまでの沢山の想い出が甦りましたね。。



大好きな一本です。 @ 14:26



帰り際... 植林斜面の林床に
ダメージを受けた コシアブラが散見されたので
茎の中を チェックしてみました。



おそらく、入っていると思います... @ 14:55



じゃん! タテジマカミキリ Aulaconotus pachypezoides THOMSON,1864
の幼虫です。 やはりいました。



いわゆる フトカミキリ亜科の幼虫の中では
異質な姿形をしています。



頭部は真っ黒ですし、お尻は切れたように扁平。。
カミキリムシの幼虫とは思えないような姿形です。

以前から、写真を撮ってみたかったんですよね。


撮影後は、元いた茎の中へ。。
頭から潜っていきました。



本種に限らず、カミキリムシの幼虫の写真は
気付いたときに なるべく撮りためておこうと思います。
何かと、役に立つと思うので。。




えっちら おっちら... 大荷物を担ぎながら、とある土場まで戻ってきました。
情けない... 今回も脚が笑ってます。。

運転席に座り、ホッと 一安心していると...

あれ?? 目の前に買物袋が。。


ワイパーに 袋が挟んでありました。
@ 15:42



わぁ!中を見ると、みかんとメモ書きが入っていました。


山中でお会いした ご夫妻が
残してくださったのです。



御礼を申し上げなければならなかったのは
こちらの方なのに...
どうもありがとうございました。

秋が深まって、冬の気配も感じられる寒空の下でしたが
人との出会いに 心があたたまりました。

そう... 僕はここで、地域の皆様、山を護る人、山を愛する人。。
多くの方々に出逢い
大切な想い出を一つ一つ胸に刻んできたのです。



~ 後記 ~


今年も、美しい森の彩りに包まれながら 調査活動を〆括ることができました。

大好きな山の自然林とは言っても
元々は、top のブナ林から稜線伝いに一続きだった訳ですから
標高が落ちれば落ちるほど
規模や植生の幅、昆虫の相など
全てのレベルが 格段に下がってしまうのは仕方がないことです。

アクセスの困難さから、秘められたエリアとして重宝されがちですが
実際の状況がどうであるかは、何度も脚を運んだ者にしか分かりません。

しかし、現地に良好な自然環境が残されていることに間違いはありません。
るりぼし の報文で綴ったとおり、樹木や昆虫は あくまでも説明要因の一つであって
「その質や量が、他と比べ最上である必要はない」 のです。

目的のムシを採りたいだけなら、早々に現場に見切りをつけていたでしょうね。。
地形や水の流れ、植生分布などの入念な下調べから
甲虫の棲息の可能性を模索して、どこまで自然度を立証できるか。。
それが終始一貫した僕の興味であり、テーマでした。

いつの間にか、地域にお住まいの皆様とも 仲良くなれました。
お陰をもって、地方史も学べました。

これまでに、110回以上も通っていた森ですから
「第二の故郷」 と謳いたくなるぐらい、愛着が湧きますよ。。

これからも、僕の心から 消えてなくなることはないでしょうね。。

そして、古くから共に歩んできた地域の皆様の山について
よそ者の僕が、とやかく口を挟む余地などないことも 身に沁みて理解できました。

R地区調査にどっぷりな一年でしたが、最後に改めて そんな認識ができて幸せでした。



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■羽化脱出したカミキリムシ : 2013年 3~4月に撮影 ( 甲虫の標本写真

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ムネモンヤツボシカミキリ
Saperda tetrastigma BATES, 1879
フチグロヤツボシカミキリ
Pareutetrapha eximia ( BATES, 1884 )





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