調査履歴

“2013年 R地区調査” 編 (54)



13.08.29
Plateau 「R地区のクワカミキリ」 
                                                                                                  

クワカミキリは、クワやイチジク、ビワなどをホストとする有名な害虫である。
しかし近年では、群馬、香川、高知の3県や 名古屋市のレッドリストに
絶滅危惧種や準絶滅危惧種として掲載されるほど少なくなった。

その要因としては、養蚕業の衰退に伴うクワ畑の減少と
1960年代から急増したキボシカミキリとの競合が推察されている (伊藤,2004)。

このような現象は、我が茨城県や ここR地区においても例外ではない。
今からおよそ30年前、1980年代までなら 台地上で盛んにクワが栽培されており
下校中に、路傍でふと見かけられた経緯もあったが...
いざ探してみると、既に見つけづらい存在となっていた。

そのため残念なことに、最近 8年越しで纏めあげた思い入れのある論文 (公文,2012) には
人工林の被害状況を報じた文献 (海老根,2006) から 1産地 (市名) を引用したものと
yasu くんが 街灯下で採集した 死骸 (腹部) の 2例しか棲息情報を収録できなかった。

かつてのクワ畑のうち、現在まで残存しているものの殆どは
放置され、樹高が増し、荒れた林に変容しているが
そこでは相変わらずキボシカミキリが大発生しており
次いでトラフカミキリが時折見られるだけである。

とはいえ、そう簡単に絶滅してしまう種類ではないだろう。
山麓〜中山間地域では 相変わらず ポツリポツリと見つかっており
近隣の千葉県北東部でも確認されている。
近年 低標高地では、植栽された ケヤキ林で徐々に勢力を盛り返しつつあるようだし
ここR地区でも、どこかで細々と 生き存えていると思われる。

[ 参考文献 ]

 伊藤賢介 (2004):ケヤキ人工林におけるクワカミキリの生態と被害,昆虫と自然 (516):11-15.
 海老根晶子 (2006):茨城県内のクワカミキリ被害について,茨城県林業技術センター研究成果解説(38)
 公文 暁 (2012):鹿行地域のカミキリムシ,るりぼし (41):2-61.



かつてのクワ畑は、いつの間にか樹上を見上げるような規模の林に変容し...


12.07.21 @H



どこへ行っても、どこを見つめても...


12.07.21 @H



キボシカミキリに支配されている印象が強いので...


12.07.22 @I
Psacothea hilaris hilaris (PASCOE, 1857)



12.07.21 @H
Xylotrechus chinensis chinensis (CHEVROLAT, 1852)



昨秋からは、ケヤキの人工林で ライトトラップを試みたり
イチジクをチェックするなど、徐々に視点を変えています。。

イチジクにも キボシカミキリが多数見られますけど
何となく、クワほどではないような気がして...

基本的には、個人の敷地内に植えられたものをチェックさせてもらうスタンスですが
大型で 一世代 2〜3年と言われる本種が、一定期間生育するための環境となると
ある程度の樹勢や、幹の太さが必要になると思われます。

その辺を目安にしながら、この日も R地区内を徘徊していました。


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13.08.29


かれこれ何度目の探索になるでしょう。

8月の終盤。。 16:30頃に、これは!と思えるような
条件の良いイチジク群を見つけました。

普段なら、すぐに視界に入るキボシカミキリの姿も
一切ありません。




その代わりに認められたのは...
小さな排糞孔から溢れ出す、食痕でした。
間違いなく カミキリムシの幼虫が潜んでいるようです。




ここにはいる、間違いない。。

確信を持って、周囲を見渡してみると...

いました!



Apriona japonica THOMSON, 1878



ガシガシと音を立てるように幹を齧っていたのは
体長 40mm ほどの♀でした。

それにしても、痛々しい絵です。。害虫といわれても、仕方がないですね。

これほどまでに存在感があり、派手にやらかすムシが
どうしてなかなか姿を現してくれなかったのでしょうか。。
不思議でなりません。

向こう側のイチジクには、♂の姿もありました。




まだ何頭かいるようでしたが
とりあえず、♂♀ 1ペアのみを証拠として採集することにしました。

無事に ひとつの任務を完了した思いです。



〜 後記 〜


実はつい先日... 22:00頃に、自宅の照明に向かって クワカミキリが飛来したんです。
ものの 2〜3秒だけ リビングの網戸にとまりましたが
“ おお! ” っと思った瞬間に 再び翅を広げて上方に舞い上がりました。

急いで表へまわり、壁面や テラスの周りを探してみましたが、時既に遅く...
盆で帰省していた yasu くんが風呂から出てきて
僕の慌てぶりに 何事かと驚いていました。

夏になれば、毎夜のようにカミキリムシが飛来してきましたが...
本種を確認したのは初めてでした。


やはり、R地区でも増えてきたのでしょうか。。

後日、裏庭のビワをチェックしたり...
前庭で ライトトラップを試みたりと
せめてもの努力は重ねましたが...


@13.08.14


お陰さまで、およそ 30年ぶりに ここR地区でクワカミキリの生体を確認し、採集に至りました。
やはり、然るべき場所には 発生しているものですね。。

害虫と称される本種の健在ぶりを喜ぶなど、ちょっと不謹慎かもしれませんが...
正直に、なんだか ホッとしました。


Apriona japonica THOMSON, 1878 ♂ ♀





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