〜クワガタに関する実験〜

クワガタの脂質って???


《はじめに》

大きなクワガタを作るためにオオヒラタケ菌がはびこった菌糸ビンなどが幼虫の餌として注目されている。

また小麦粉を入れるとよい!などの様々な情報もネット上でよくみかける。

大きなクワガタ=大きな身体=脂肪(脂質)

脂質はエネルギーとして使うよりも蓄積するほうに行きやすいので、同じ量をとるなら、糖分やたんぱく質よりも脂質だろう! 

やはり人間と同じで、太るためには脂質を沢山食べるのが基本だろう!

そう考えた私は、まずクワガタ幼虫の脂質について色々と調べてみることにした。

かわいそうにも実験台になってもらったのはコクワガタの幼虫である。

少しでもクワガタブリーダーの参考になればよいと考えて行いました。


ちなみに私は、採集専門で、幼虫飼育は大の苦手です(成虫も)。

貰い手が見つからないとき、仕方なく飼育したりしますが、半分以上はほったらかしにして死んでしまいます(^_^;)。


サンプル

sample 湿重量(幼虫重量)*(g) 乾燥重量(g) 水分割合(%)
コクワガタ幼虫 1.76 0.39 77.8

*体内に残った排泄物も含まれる。

(ちなみにこのサイズの幼虫がする糞一個の重量は0.06 gであった。参考まで・・・)

《脂質抽出》・・・幼虫の脂質はクロロホルム・メタノール溶液を用いた一般的な方法で抽出された。



《幼虫脂質組成分析》

抽出した脂質の一部は薄層クロマトグラフィーにかけることで、脂質組成を調べた。

[ 図1 コクワガタ幼虫の脂質組成 ]

    

..

 この図1から、このサンプルにはTG(グリセリンに3つの脂肪酸がついたもの)、つまり油が多く含まれていることがわかる。このことからコクワガタ幼虫は体内に油が沢山蓄積していると考えられる。図1で薄く見えているDGやMGは時間がたつと、FFAを取り込んでTGが作られるのだろう。また細胞膜の主な構成成分であるリン脂質(PA,PE,PC,PIなど:グリセリンに2つの脂肪酸とリン酸+αがついたもの)のなかでは、PC,PIを主成分としているようである。PC,PI以外のリン脂質がほとんど見られないことは大変興味深い...。リン脂質の組成は、動物、植物、バクテリアなどによって様々であり、例えばヒトなどの動物はPC,PEを主成分としているが、他のPS(ホスファチジルセリン)やPIなども含んでいる。また、大豆などは図1のSTDで示したように、PCを中心に、PI,PE,PAをある程度持っている。

 カビ・キノコの中には油を菌体内にリピッドボディーという形で蓄積するものも少なくない。油はエネルギー貯蔵物質としては糖質やたんぱく質よりエネルギーをより多く蓄えることができる。クワガタの幼虫も材やそれに生えたカビなどから、主要栄養分の一つとして油を摂取することで成虫になるために必要な体力をつけ、エネルギーを蓄積しているのかもしれない。もし、油を沢山食わせる方法が確立すれば、大きな個体のクワガタをブリードできるかもしれません・・・!!!!

STD:スタンダード(大豆レシチン)

TG:トリグリセリド

FFA:遊離脂肪酸

DG:ジグリセリド

MG:モノグリセリド

PA:ホスファチジン酸

PE:ホスファチジルエタノールアミン

PE:ホスファチジルコリン

PI:ホスファチジルイノシトール




《脂肪酸分析》

つづいて、上の実験で見られたトリグリセリド(油)やリン脂質を構成している脂肪酸

はどんなものを持っているのだろうか・・・という実験を行った。

抽出した脂質の一部はメチルエステル化し、ガスクロマトグラフィーを用いて

脂肪酸分析を行った。結果は図2、表1に示す。

[ 図2 ガスクロマトグラフィーによる脂肪酸分析 ]

..

[ 表1 脂肪酸組成比 ](図2を表にしたもの)   

脂肪酸慣用名組成

(炭素数:不飽和数)
慣用名

組成比

(%)
C12以下 ---- 2.6
14:0 ミリスチン酸 0.3
15:0 ---- 0.3
16:0 パルミチン酸 19.0
16:1 パルミトオレイン酸 3.0
17:0 ---- 0.4
18:0 ステアリン酸 0.8
18:1 オレイン酸 66.0
18:2(n-6) リノール酸 6.5
18:3(n-3) αリノレン酸 0.1
20:1 ---- 1.0
unknown ---- 0.1



 飽和脂肪酸として14:0,15:0,16:0,17:0,18:0が検出された。炭素鎖が奇数の脂肪酸は自然界では希少なものであるが、このサンプルには15:0,17:0の合計が3.3%含まれていた。

 一価不飽和脂肪酸はパルミトオレイン酸、オレイン酸、20:1が含まれていた。特にオレイン酸が66.0%と大変高い割合であった。オレイン酸は最近、オレインリッチという文句で高い割合で油に含んだ状態で売られているが、人間の身体にとっても、酸化しにくい不飽和脂肪酸として大変良いとされている。クワガタの幼虫も食用油としては適しているかも・・・(笑)。

 高度不飽和脂肪酸はリノール酸、αリノレン酸のみ含まれていた。高度不飽和脂肪酸には他にDHAやEPAそしてアラキドン酸など、人間の健康に良いとされているものがあるが、そのような炭素数20以上の脂肪酸はほとんど持っていないようである。今後、幼虫にDHAやEPAを与えてどんな変化がでるか観察するのも面白いかもしれない。。。(「雑木林のある風景」というOKUさんのページにて粉ミルクを入れて幼虫を飼育する試みがなされているが、おそらく粉ミルク中にはDHAやEPAも多めに含まれているので、もし大きな個体が得られれば脂肪酸組成の影響もあると考えたい・・・。DHA食べてるから頭のいいクワガタが誕生したりして(笑))

 全体的にはオリーブ油の組成に似ている。オリーブ油も大変身体に良いとされているので、ほんとに食用油として適しているかも・・・!逆に、オリーブ油を幼虫の餌として用いることが出来るかもしれない(しかし、オリーブ油中には、微量な防虫成分が含まれている可能性もあるので試す際には注意が必要だろう)。。。


脂肪酸含有量

上の脂肪酸分析実験を行う際に標準物質も同時に行うことで、脂肪酸含有量を算出してみた。

脂肪酸含量(/g 乾燥幼虫重量) 24.6 mg/g
脂肪酸含量(/g 湿幼虫重量) 5.4 mg/g

この結果は、幼虫乾燥体重の約2.5%が油に相当していることを示している。

おそらく、大きく太った幼虫はこの値が、もっと高い値になると思われます。

10%以上にはなるんじゃないかな???(個人的予想)



《まとめ》

○ コクワガタの幼虫において、膜の主成分としてホスファチジルイノシトールとホスファチジルコリンを含んでいた。

○ 脂質成分中、トリグリセリドが多く見られたことから、体内に油を沢山蓄積していると考えられた。

○ 脂肪酸組成中、オレイン酸が沢山含まれていた。組成比としてはオリーブ油に似ていた。

○ 幼虫乾燥重量の約2.5%が油に相当していた。