〜クワガタに関する実験〜
クワガタの脂質って???(第2弾ミヤマ&スジ編)
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ミヤマクワガタ | スジクワガタ |
《はじめに》
前回、コクワガタ幼虫の脂質についての実験について報告した。
コクワガタについては・・・脂質組成として、トリグリセリド、ホスファチジルコリン、ホスファチジルイノシトールを豊富に含んでいること、脂肪酸組成としてパルミチン酸、オレイン酸を多く含んでいることなどを明らかにした。
今回はミヤマ&スジクワガタの幼虫を用いて同様の実験を行ったので報告する。
果たして、今回の実験でコクワガタとの違いは何かみられるか???
サンプル
sample | 湿重量(幼虫重量)*(g) | 乾燥重量(g) | 水分割合(%) |
ミヤマクワガタ幼虫 | 2.25 | 0.30 | 86.8 |
スジクワガタ幼虫 | 0.80 | 0.15 | 81.2 |
*体内に残った排泄物も含まれる。
水分割合はコの77.8%に比べ2種とも高い値であった。(ミヤマ>スジ>コ)
ただし、これは個体の生育環境や生育状態により異なる可能性もありうる。
《脂質抽出》・・・幼虫の脂質はクロロホルム・メタノール溶液を用いた一般的な方法で抽出された。
《幼虫脂質組成分析》
抽出した脂質の一部は薄層クロマトグラフィーにかけることで、脂質組成を調べた。
[ 図1 ミヤマ&スジ幼虫の脂質組成 ]
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ミヤマクワガタ(M)とスジクワガタ(S)の両者において、 コクワガタの幼虫と同様に多くのトリグリセリド(TG)を含んでいた。このことからM&Sは油を豊富に体内に蓄積していることがわかる。 またリン脂質においてもコクワガタと同様にPCとPIを中心としていた。ただしコクワガタよりもM&Sの方がリン脂質全体に対するPAの割合が高い。 予想どおり、M&Sそしてコクワガタの脂質組成に大きな差は見られなかった。おそらく系統的にクワガタに分類される属種はTG、PC、PIを主体とする似たような脂質組成を持っているのかもしれない。 系統分類学で近年最もよく用いられる方法として、18SrDNA解析があるが、その方法によるとコクワガタやM&Sが別々の種として誕生するずっと昔に、マダラ、ルリ、ツヤハダ、マグソクワガタなどは分かれて独自に進化してきたようだ。これらの幼虫の脂質組成にも興味が持たれる。 |
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M:ミヤマクワガタ S:スジクワガタ TG:トリグリセリド FFA:遊離脂肪酸 DG:ジグリセリド MG:モノグリセリド PA:ホスファチジン酸 PE:ホスファチジルエタノールアミン PE:ホスファチジルコリン PI:ホスファチジルイノシトール |
《脂肪酸分析》
上の実験で見られた脂質中に含まれる脂肪酸の組成について調べた。
抽出した脂質の一部はメチルエステル化し、ガスクロマトグラフィーを用いて
脂肪酸分析を行った。結果は表1に示した。
[ 表1 脂肪酸組成比 ]
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ミヤマクワガタ(M)とスジクワガタ(S)の体内に存在する脂肪酸はほぼ同じであった。ただし、αリノレン酸においてはSで微量含まれていたのに対し、Mでは見られなかった。(検出限界値以下の可能性あり。) 前回のコクワガタと比べると、オレイン酸の量(コクワ66.0%)や微量なαリノレン酸(コクワ0.1%)を含んでいるなどの点ではスジとコクワのほうが似ている(同じドルクスだから?)ようにみえる。しかし、リノール酸(コクワ6.5%)、パルミチン酸(コクワ19.0%)などはむしろミヤマの方がコクワに近いことなどからも、これら3者を脂肪酸組成で比較することは難しい。 ヒトなどの動物は、食事によってこの脂肪酸組成は大きく変わりやすい(魚を食べている人種はDHA(22:6)などの割合が高いなど・・・)。このことから、似た環境に住むMとSが似ていて、両者はコクワとの明らかな違いが見られることを予想したのが、結果は3種類ともかなり近い組成を示したことは大変に興味深い。 ツヤハダやネブトなどは今回調べたクワガタとは大分違った餌を食していることが予想されることから、それらの幼虫の脂肪酸を調べるのも面白いだろう。 |
《脂肪酸含有量》
脂肪酸含有量を算出した。
脂肪酸含量 |
M |
S |
(コクワ)前回の値 |
(/g 乾燥幼虫重量) | 118.3 mg/g | 74.7 mg/g | (24.6 mg/g) |
(/g 湿幼虫重量) | 15.6 mg/g | 14.0 mg/g | (5.4 mg/g) |
この結果より、ミヤマクワガタは幼虫乾燥体重の約11.8%が油に相当している。
また、スジクワガタのその値は約7.5%であった。これらの値はコクワガタのものより
3〜5倍近くもの高い値であった。
ミヤマやスジの幼虫はコクワよりも油を蓄積する能力があるのかもしれない。
ミヤマとスジの成虫の標本をつくる際に、間接部分を接着剤等で補強するとき、他のクワガタより
油っぽく接着させるのが難しいというのを聞いたことがある(兄より)。幼虫の油の蓄積性と
何か関係があるのだろうか???
《まとめ》
○ ミヤマ&スジの幼虫において、膜の主成分はホスファチジルイノシトールとホスファチジルコリンであった。
○ 脂質成分中、トリグリセリドが多く見られたことから、体内に油を沢山蓄積していると考えられた。
(ミヤマ&スジの脂肪酸量は幼虫乾燥重量の11.8%&7.5%であった。)
○ 脂肪酸組成中、オレイン酸が沢山含まれていた。
○ コクワ・ミヤマ・スジの3種類における脂質組成、脂肪酸組成はよく似ていた。
○ ミヤマ&スジの脂肪酸量は幼虫乾燥重量の11.8%&7.5%であり、それはコクワの3〜5倍であった。