調査履歴

“2011年 R地区調査” 編 (32)



11.08.23
(Tue) Plateau 「スダジイの古木@環境保全地域めぐり」 
                                                                                                  

既に 8月の下旬となりましたが、今年初めての R地区調査編をご報告いたします。
大変 ご無沙汰してしまいました... m(_ _)m

久しぶりとなる今回は、南方系の真っ赤なカミキリムシを見つめてみたいと思います。
我が茨城県が、棲息域の北限とされている種類です。

近年は、発生木となるスダジイの古木が 各地で次々と伐採されており
本県では勿論、埼玉や千葉、神奈川でも 絶滅が危惧されているようです。

水戸昆の会誌、るりぼし39号 「 R地域における歩行虫の記録 」 2-14
にも記した通り、県内で最も温暖な R地区には
そんなスダジイやタブノキなどを主とした常緑樹林が広く残存しています。

なかでも、社寺林などの纏まった緑地 27ヶ所

県の自然環境保全地域 および緑地環境保全地域に指定されいます。
  
自然〜( 8 / 33ヶ所 ) ・ 緑地〜( 19 / 44ヶ所 ) → 茨城県の環境保全地域

こういった好条件下にあってか、1980年代中盤〜後半にかけては
R地区の某所において、本種が少しずつ確認されていたようです。

その後、茨城県ではホスト採集の記録が途絶え 20年あまりが経過しました。
環境の変化に伴い、個体数が減ったのは確かでしょうけど...
常緑樹林の現状を見る限り、いなくなってしまったとは思えません。
(むしろ、探す人の数が減ってしまったような。。)

ひとつの経験として、そんなカミキリムシをホスト採集してみたいことと...
「タブノキ」 や 「カクレミノ」 の場合と同様に、2005年から継続調査してきた環境保全地域を
「スダジイ」 という視点から 改めて見直してみたいこと...
また、R地区における本種が健在であることを確かめておきたく
夏の終わりに、またやる気が湧いてきました。



〜 昼の部 〜


10:00過ぎに、実家を出発しました。

今回は、新しい産地での確認を目標に 幾つかの環境保全地域を回ってみたいと思います。
(勿論 既知産地での勉強も、経験済みです。→ 残念ながら見つけられませんでした... m(_ _)m)

樹林の規模としては、あまり広すぎると的が絞れないし...
逆に、狭すぎれば棲息している可能性が下がると思われます。
そこで、1.5ha 前後の地域を あらかじめ ピックアップしておきました。

相手は夜行性で、日中は樹幹にあいた洞や小さな孔の奥深くに潜んでいるため
まずは樹林の下見に徹する予定です。


震災の影響で、バウンドするように
坂道を下っていきます。... @10:18



ここのところ 気温が非常に低く、ムシの気配があまり感じられなかったのですが...
今夜は久しぶりに夏らしくなるそうで、期待できます。 心配されるのは、雨だけです。。


ここの かりんとうは 凄く美味しかったとか。。



手始めに、歩行虫を探した経験のある最寄のエリアを目指しました。


正面の台地上へ... @10:32



この辺りです。 古いスダジイが、ポツリポツリと見えてきました。



けれど、ちょっと 違うかな... @10:36



お馴染みの、ブラックボードです。。

自然林と呼べるエリアには、どうやらスダジイの古木があまり見られない様子。。。
ここは見当違いでした。


相変わらずの錆付いたボードです...
まだ、新調されてませんでした。



せめて、神社の片隅にある 推定樹齢 500年の大木を見学していくことにしました。



凄い... 貫禄充分です。



念の為、洞や孔の中にライトを当ててみましたが
カミキリムシの姿は見つかりませんでした。

それにしても、このスダジイは立派なものでした。



「でかさ」 が、写真では伝わらなく残念です。。



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2つ目は、以前、歩行虫調査のために ピットフォール・トラップを仕掛けて
定期的に通っていたエリアです。



かつて、鹿島神宮は こちらにあったそうです。
... @11:32



また、本県のカミキリムシを先駆的に調査されていた 沼田 稔さんが
2例目のホシベニカミキリを採集された場所でもあります。
それを考えると、なんだかとても感慨深いです。

かつて、「茨城県のカミキリムシ」 を残された沼田さん...
そして、阿武隈より重要な発見と報告を続けられた坂口春典さん...

近年の記録の大半は、いつの間にか偉大な先輩方の足跡を辿っていることを
皆さんはご存知でしょうか。。


朽ちた大枝が、転がっていました。... @11:42



辺りには、スダジイの老樹が沢山見られます。

ここになら、棲息していても おかしくはないでしょうね。。

しかし... 藪蚊の数が半端ではありませんでした。
捕虫網で掬えば、あっという間に 3桁に達してしまうでしょう。

午前中の段階で、かなり蒸し暑くなりましたが、上下のウインドブレーカーを着用し
顔面や首筋、足首には 虫除けスプレーを かけまくって臨んでました


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さてさて、3つ目のポイントです。

ここも訪れた事はありますが、境内にあがるのは初めてです。


いつの間にか、ボードが 新調されていました!
... @12:16



小刻みな石段は、140段ほどありました。

ついつい数えてしまいますね...


苔生しているので、滑り落ちないように。。



スポ根 ドラマ、アニメ等々... こういうところで修行している光景をよく視ますが... (^ ^;;
間違いなく膝に悪いので、真似しない方が良いでしょう。 まぁ、根性は鍛えられそうですけど...


とりあえず、上り詰めて まず目にしたのはこちら。。
この小さな山の中には、沢山の神様が祀られているようです。。
勿論 全文に目を通し、後ほど一通り回ってみました。



興味深い案内板がありました... @12:19



肝心な樹林の雰囲気も、なかなかのもの。。


ただ、全体的に 弱齢樹が多いでしょうか。。



こちらが、最も老齢かと思われます。


なんとなく、オーラを出してますね... @12:29



裏側に開いた大きな洞を覗いたところ、幾つかの羽脱孔が確認できました。
しかし、正円形でしたので 別な甲虫のものと思われます。

あとは、お約束の カマドウマが何頭も居座っていました。。


とても良い雰囲気でしたが。。



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どんどん行きます。 第4ポイントです。
ここでは、スダジイ、タブノキの他、カシ類も見られるとか。。


やはり、取り替えられてません。... @12:51



早速、境内へ上がってみましょう。


手入れされた エントランスです。



うっかりして、林内の様子を撮影し損ねましたが...
スダジイについては、なかなかの大樹が 6本ほど見受けられました。
樹林全体としての規模は いささか小さかったものの
歴史があればこそ、従来からの棲息の可能性も高まる気がします。


で... ここへきて、ようやく重要な手がかりを見出すことができました。



おお... あれは!?



羽脱孔です。

フトカミキリ亜科なら正円形、というように
甲虫類は、身体の断面形状に応じた羽脱孔を開けるものです。

こちらは楕円形ですが、ノコギリカミキリのものより やや小さめで
平たくつぶれている気がします。。

とにかく、これまでに見たことがない形ですので、ここは期待できそうです。
間違いなく、夜の部の候補地になるでしょう。



しかも、新しそう... @13:05



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その後も、幾つかの常緑樹林を巡りながら
最後に、この日で最も素晴らしいエリアを初訪問しました。



空き家だらけの画地を抜け... 更に荒地を突き進み
辿り着きました。... @13:39



ここ (↓) になら、「本県を北限とする」 甲虫の種名も並べられるかもしれませんね。。


本日見た中で、一番錆び付いてましたよ... @13:42



見上げるスダジイは、どれも古いものばかり。。


あちこちが、朽ちています。



藪蚊に刺されながら、目が届くあらゆる洞を 覗き込んでおきました。


こちらも、良さそうです。



少し離れて、樹林を外側からも眺めてみました。


大分鬱蒼としています。... @14:07



隣接する畑は、放置されていました。


雑草が蔓延っています。... @14:13



暫らくの間、人の気配がなさそうなエリアです。。


迷惑がかからないので、大胆に明かりを灯すのも
手かもしれません。



ここも、夜に訪れてみたいと思います。


楽しみです。... @14:16



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あっという間に 14:00 を回りました。

ここで 昼の下見を打ち切りにし、ちょっとした用事を片付けるため
いったん千葉の津田沼へ飛びました。



ゴメンナサイ、急ぎ足なんです!(>人<) ... @15:39





〜 夜の部 〜


17:30 には、無事に用事を済ませました。
日没の頃には、茨城へ舞い戻らねばなりません。



ここは 習志野市の茜浜地区... @17:44



この時間帯は混みますので、再び高速移動です。


美浜区から、高速へ。。



夜回りを心待ちにする感覚は、クワガタをやっていた頃以来で
とても久しぶりな気がします。 ワクワクしましたよ。



利根川を渡れば、再び茨城県です。... @18:23



巡回コースは、下見をした 3つのエリアに絞りました。
2番目に訪れたのは、こんなところです。



唯一、入口に 明かりが灯るエリアでした。... @19:36



静寂な夜の森に包まれて、とても穏やかな気持ちになれました。


今日は、R地区の神社巡りでもありましたね。。



スダジイの樹幹には、日中洞の中に潜んでいた カマドウマが沢山付いていました。


光量が足りません... 本当に真っ暗です。。



バケツに溜まった水面を見ると、ムネアカセンチが浮いていました。。


手前のオレンジ色です。



林内をさまよい、20分ぐらい経ったころでしょうか。。

突然、ハッとしたんです。

スダジイの部分枯れの上に、赤い影が見えました!

はぁぁ... 来たぁ... (>_<)


幸い、捕虫網を準備していたのですが
リングの幅が大きく、樹表面との間に隙間ができてしまい
下から突いてネットインすることができそうにありません。。

さぁ、どうしよう。。。

こんなとき、いつも僕は焦ってしまい 取り逃してしまうパターンが多いので
まずは手堅く写真を撮っておくことにしました。

例えピンボケでも、証拠さえあれば記録を残すことが可能です。


間違いないでしょう。... @19:58



赤いカミキリムシがいる高さは、足元から およそ 4.5m ぐらい。。
いずれにせよ、下にネットをあてがい、そこへ上手に落とすしかないだろうな。。
ならば、長い突き棒もあると便利なんだけど。。

手頃な棒を探している間に、いなくなってしまわないかと心配でしたが
静止しているのは、どうやら産卵中の♀であることに気付き
意を決して 一時現場を離れることにしました。

約 2分後... 運良く手頃な太さの落ち枝を持ち帰ることができました。

まずは、再び上を眺めます。 大丈夫、まだいる。。

焦らないで、余計な小枝を削ぎ落とし、充分に使えそうな突き棒ができあがりました。

顔の周りには、沢山の藪蚊が群がっていましたが
もうこの段階になれば、彼らの好きにさせておきます。

左手に捕虫網、右手に突き棒、口に懐中電灯... というスタンスで
ワンチャンスに挑みました。

軽く突いて、ポロッと落とし...

よし... 完璧、絶対に入った!

そう確信して、ネットの中を覗き込みました。

あぁ、良かった。。


無事に、採ることができました。... @20:12



ホッと一安心です


ベーツヒラタカミキリ
Eurypoda batesi GAHAN, 1894



ムシを採る為に、緊張して手が震えたのは 久しぶりでした。
この感覚は、いつ味わっても堪えられません。。


車へ戻り、ウインドブレーカーを脱いで ゆっくりと汗を拭きました。
早速 yasu に 197つ目の報告をしておきました。


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さぁ、残された時間を無駄にしてはなりません。
少しでも、本種の分布状況の把握に繋げられればと思います。

次へ参りましょう。。



まだ、終わりではありません。... @20:22



最後のポイントでも、30分ほどのルッキングをしました。

昼間に予想していた通り、夜間も とても良い雰囲気だったのですが...
残念ながら、ベーツの姿を見つけることはできませんでした。
まぁ、そんなものでしょう。 諦めず、またの機会に訪れたいと思います。

代わりに、こんな甲虫の写真を掲載しておきます。。

この時期に、R地区のスダジイ林で良く見られたゴミムシダマシです。
かなり大型で、なかなかカッコイイですよ。

その他、ヒメマイマイカブリなども何頭か徘徊してました。


ユミアシゴミムシダマシ
Promethis valgipes(MARSEUL, 1876)



そして、更にもうひとつ。。

昼間の羽脱孔と比較するために、こちらも掲載しておきたいと思います。


ノコギリカミキリの羽脱孔です。... @21:15



丸みがあり、幅も広いです。
お... 良く見れば、脱出できずに息絶えた♀の姿も見られました。。


触角が12節まであるので、ニセではありません。。



本県における ニセの存在も、いずれは確かめておかねばなりませんね。。


今夜は、求めていた R地区産ベーツヒラタカミキリの一頭目が確認でき
とても運が良かったと思います。

当面の目標は充分に達成されましたし、制限時間も迫ってきたので
この辺で お開きとしました。



〜 後記 〜


タブノキのホシベニカミキリ、カクレミノのタテジマカミキリなど
環境保全地域ならではの植生を頼りに
これまで色々なカミキリムシを探してきましたが
今回は、スダジイのベーツヒラタカミキリを見つけることができました。

太くて貫禄のあるスダジイ群と、ベーツの存在は良くマッチしますね。

勿論、以前から本種の再確認を切望していた yasu には、いち早く連絡しておきました。
そう、薄っすらとですが 僕らは小学生時にも偶然本種を見ていた記憶があるのです。
昔は、本種もオオクワガタも いつの間にか目の前に現れていました。

日本の各地で絶滅が懸念されている本種は
常緑樹林、そしてR地区の環境を指標する重要な昆虫といえるでしょう。
錆びれたブラックボードに、本種の名前があっても間違いではありません。

ということで、大切なことは 次のステップになりますね。。
今後も、少しずつ 本種の分布状況を把握して行ければと思います。

とりあえずは、健在ぶりが明らかになり ホッとしました


〜 主な確認種

●カミキリムシ科 Cerambycidae
 ベーツヒラタカミキリ
 ノコギリカミキリ


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ベーツヒラタカミキリ
Eurypoda batesi GAHAN, 1894
 





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